
駅で急に電車が止まり、案内も二転三転して、人がホームを行ったり来たりする。そんな場面を見たとき「右往左往」という言葉が頭に浮かぶことがあります。
ただ、この四字熟語は「単に忙しい」だけではなく、行き先や判断が定まらず、状況に振り回される感じが濃い表現です。ニュースでは災害やトラブルの混乱、ビジネス記事では方針の迷走を批判する文脈でもよく使われます。
意味の輪郭、由来、似た言葉との違いまで押さえておくと、「慌ただしい」と「混乱している」を書き分けたい場面で、表現がぐっと正確になります。
右往左往の意味と読み方

読み方は「うおうさおう」です。
右往左往は、右へ行ったり左へ行ったりして、あわてふためき混乱している様子を表します。状況がつかめず、どうしてよいかわからないまま、オロオロ・ウロウロしてしまう状態を思い浮かべると近いでしょう。
人が実際に動き回る場面だけでなく、方針や相場の動きなど、抽象的な対象にも使われます。たとえば「対応が右往左往している」と言えば、判断が定まらず迷走している印象が強く出ます。
ニュアンスとしては「自分の意思で動いている」というより、環境や出来事に押されて動かされている感じが中心です。迷子のように行き先が決まらない、あの落ち着かなさが言葉の核にあります。
右往左往の由来と成り立ち

右往左往は、文字どおり「右へ行く」「左へ行く」という動きからできた表現です。「往」は「行く」という意味を持ち、「右往」は右へ行くこと、「左往」は左へ行くことを指します(「左往」は「ざおう」と読まれることもあるとされています)。
右へ左へと行ったり来たりする動きは、目的地が定まっていない、あるいは状況が飲み込めていない状態を連想させます。そこから比喩的に、混乱して落ち着きがない様子を表すようになったと考えられています。
用例は古く、平安期の軍記物語『平治物語』に見られるとされています。現代でも意味の大枠は変わらず、混乱の描写や、方針の迷走を言い表す言葉として生き続けています。
右往左往の使い方
右往左往は、会話でも文章でも使えますが、どちらかと言えば書き言葉寄りで、ニュース記事やレポート、少し改まった文章でよく見かけます。口に出すときも、やや硬めの印象が残るため、場面によっては「うろうろする」「あたふたする」に言い換えると自然です。
よくある形(文型)
使い方はシンプルで、次の形が定番です。
- 〜して右往左往する
- 〜で右往左往だ
- 右往左往の状態(になった)
「人」だけでなく「組織・方針」にも使える
右往左往は人の動きの描写が原型ですが、現代では「対応」「方針」「議論」「相場」などにも自然に接続します。たとえば「政府の対応が右往左往している」は、決めたことが揺れて一貫性がない、という批判的なトーンを含みやすい言い方です。
一方で、目的が明確で、必要に迫られて走り回っているだけなら「東奔西走」や「奔走」のほうが合う場合があります。右往左往には、“行動量”より“混乱と迷い”が前面に出る点が特徴です。
ニュースやビジネス文脈での「批判語」になりやすい
近年は、災害・事故・大規模障害などの混乱を描写するだけでなく、企業や行政の意思決定がぶれる様子を指して「右往左往」と評する使われ方も目立ちます。
そのため、職場の上司や取引先の対応に対して使うと、相手を強く否定する響きになりがちです。社内文書やメールで使うなら、評価語としての強さを踏まえたうえで、表現を一段やわらげる工夫が必要になるでしょう。
右往左往の例文
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初めての海外旅行で、空港内を右往左往した。
案内表示の見方がわからず、行き先が定まらない「迷子感」がよく出る例です。
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電車の運転見合わせで、駅構内は右往左往する人であふれていた。
多くの人が行ったり来たりして秩序が乱れる場面に向きます。個人だけでなく群衆にも使えるところがポイントです。
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突然のシステム障害に、現場は右往左往状態だった。
原因が見えず、指示系統も定まらないときの混乱を短く表せます。
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方針が二転三転し、チームは右往左往させられた。
「右往左往する」だけでなく「右往左往させられる」とすると、状況や上層部に振り回される受け身のニュアンスが際立ちます。
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材料費の高騰で価格改定の判断がつかず、経営陣の議論は右往左往した。
抽象的な対象(議論・判断)にも広げられる用法です。落ち着かない上下動、迷走の雰囲気が伝わります。
右往左往を使うときの注意点
「忙しい」だけの場面には合いにくい
右往左往は、忙しさよりも混乱が中心です。予定どおりに段取りよく動いている状況を「右往左往」と書くと、目的が見えない動きに見えてしまいます。
たとえば「締切前で右往左往している」は、単なる多忙というより、準備不足や優先順位の未整理でバタついている印象を伴います。意図せず自己評価を下げる表現になりうる点には注意が必要です。
他者に向けると、批判の度合いが強くなる
「上司が右往左往している」「会社が右往左往している」は、当事者の混乱や迷走を断じる言い方になります。事実描写のつもりでも、読み手には非難として受け取られやすいでしょう。
角を立てたくない場面では、「対応が定まっていない」「判断が揺れている」など、評価語を弱めた表現に置き換えると安全です。
「右往左往」と「左往右往」は基本的に同義だが、一般的なのは前者
似た形として「左往右往(さおううおう)」もあります。意味はほぼ同じで、多くの人が慌てふためいて混乱する様子を表すとされています。
ただ、一般的・標準的に流通しているのは「右往左往」です。文章ではこちらを基本にし、「左往右往はややマイナーな表記」と添える程度が読みやすいまとめ方になります。
右往左往に似た言葉との違い
混乱や慌てぶりを表す言葉は多く、似た単語を並べるだけだと使い分けが難しくなります。右往左往の特徴は「行ったり来たり」と「判断が定まらない」を同時に含むところです。
周章狼狽(しゅうしょうろうばい)との違い
周章狼狽は、あわてふためいてうろたえることを表す四字熟語です。右往左往と同じく混乱の語ですが、こちらは「狼狽する(うろたえる)」の色が強く、必ずしも“右へ左へ動き回る”描写を含みません。
行動の方向感まで描きたいなら右往左往、心理的なパニックを強調したいなら周章狼狽、という分け方がしやすいでしょう。
あたふたする/うろたえる/まごつくとの違い
日常会話では「あたふたする」「うろたえる」「まごつく」のほうが口当たりが柔らかく、場面も広く対応できます。
- あたふたする:落ち着かず慌てる。軽い失敗談にもなじむ
- うろたえる:動揺が中心で、心の揺れが見えやすい
- まごつく:次の一手がわからず手間取る感じが出る
右往左往は、これらより一段「場が混乱している」絵が浮かびやすく、文章にすると輪郭が立ちます。
てんてこ舞いとの違い
てんてこ舞いは、忙しさや手一杯の状態を強く表します。混乱が含まれる場合もありますが、中心は「処理量が多くて回らない」ことです。
右往左往は、やるべきことの多さよりも、状況把握や判断の迷いが前に出ます。忙しいだけなら「てんてこ舞い」、迷って混乱しているなら「右往左往」と置くと、文章が整理されます。
東奔西走(とうほんせいそう)との違い
東奔西走は、目的のために忙しくあちこち駆け回ることを表します。動き回る点は似ていますが、こちらは「目的がある」「成果のために動いている」ニュアンスが比較的強く、必ずしも混乱を含みません。
同じ“走り回る”でも、右往左往は迷いの匂いが残ります。努力の描写として肯定的に書きたいときは、東奔西走のほうが収まりがよい場面が多いでしょう。
反対に近い表現:泰然自若/冷静沈着
右往左往の反対側には、落ち着きや平常心があります。四字熟語なら「泰然自若(たいぜんじじゃく)」が代表的で、何があっても動じない態度を表します。「冷静沈着(れいせいちんちゃく)」も、慌てずに対処する姿勢を示す言葉です。
混乱の描写にこれらを対比させると、同じ出来事でも「場が右往左往する一方、責任者は泰然自若だった」といった具合に、人物像や組織の成熟度まで書き分けられます。
右往左往を日常や仕事でどう活かすか
右往左往を知っていると、「忙しい」「大変だ」という雑な一言では片づけられない混乱を、短い言葉で切り取れるようになります。とくに、行動が増えているのに前へ進んでいない状況を、的確に言語化できるのが強みです。
たとえば職場でトラブルが起きたとき、「みんなが右往左往している」と表現すると、単なる多忙ではなく、指示系統や判断軸が定まっていない問題が透けて見えます。原因が“作業量”なのか“意思決定”なのか、論点を分ける手がかりにもなります。
日常でも同じで、朝の支度が遅れたときに「てんてこ舞いだった」のか「右往左往していた」のかを言い分けるだけで、反省点が変わります。前者なら時間配分、後者なら準備不足や優先順位の迷いがテーマになりやすいでしょう。
ニュースで「対応が右往左往している」と書かれていたら、批判の矛先は“スピード”だけでなく“一貫性”に向いている可能性があります。言葉の含意が読めると、記事の温度感もつかみやすくなります。
まとめ
右往左往(うおうさおう)は、右へ左へと行ったり来たりしながら、あわてふためいて混乱する様子を表す四字熟語です。迷子のように行き先が定まらない感じや、状況に振り回される受け身のニュアンスが色濃く出ます。
成り立ちは「右往=右へ行く」「左往=左へ行く」という具体的な動きにあり、そこから比喩的に混乱の状態を指すようになったとされています。古くは『平治物語』に用例が見られるとも言われ、意味の骨格は現代でも大きく変わっていません。
使い分けの面では、「てんてこ舞い(忙しさ)」や「東奔西走(目的のための奔走)」と区別すると文章が締まります。右往左往を置くことで、「動いているのに定まらない」「判断が揺れて現場が振り回される」といった混乱の質まで、読み手に伝えやすくなります。
参考文献・出典
- 小学館『デジタル大辞泉』
- 『平治物語』